辛さの裏腹に慶

長い人生にはいろいろな危機がある。

ましてや長い人生を送ってくれば、あなたの危機は何度もあり、

それも、もう今度こそダメだと思ったことも何度かあるかもしれない。

 

真剣に生きていればこその出来事。

 

そんな時何が力になるのだろう。

追い詰められ、抜け道のない壁に押し付けられ、

息も絶え絶えとなっている時、

 

あなたにとってこれまでで、一番楽しかった時を思い出しておいておいた方がいい。

そう、最後の時に思い出したい情景。

 

過去の思い出なんて、思い出でしかない。

いま必要なのは、

社会が公認する金

孤独を癒す去っていった愛

そして誰もが歳ともに失っていく若さ。

そう思っているあなた、ちょっと待って欲しい。

 

思い出はまるで生きもののように、カタチを変えながらも不動に存在している。

それは身体の中に担保されている。

思い出せる楽しい思い出はその断片でしかない。

氷山の一角のように、その奥には身体にその時感じたものが大きく埋まっている。

 

辛い時は、埋蔵された思い出のトリガーとなるその思いだせる情景を克明になぞればいい。

その時の空気感、風の匂い、周りの音、肌が感じた歓喜、身体が覚えている限りの情景を、まるでそこに存在しているかのように再現してみせる能力。

 

もちろん今のあなたは、過去のあなたではない。

でも今のあなたの身体は、過去のあなたの身体を担保している。

 

辛い時には、悲しければ悲しいほど、楽しさの深さがあなたには必要だ。

 

きっとあなたは、そんな思い出を持っている。

無論、世間体の幸せなどを話しているのではなく、

どんな些細なことでも、他人が聞いたら笑ってしまうことでも、

あなたにとっての最高の至福はあったはずだ。

 

重要なのは客観ではなく、主観、

妄想ではなく、リアルな再現、

 

でっかくなりすぎた現代の頭ではなく、

 

春は桜の開花に心躍り

夏はセミの声に夏の終わりを体感し

秋は遠くに飛ぶ鳥に、理由のない寂しさを醸し

冬は無音の夜空に浮かぶ月に染み入る

 

そんな身体全体で感じる慶のこころだ。

 

2024/1/9 Sosuke Imaeda